2014年7月19日土曜日

最高裁の『外国人生活保護』に対する新判断について(1) ~事実の発生から第一審判決まで~


先ず言っておく。


大喜びしてるネトウヨ酷使様や自称愛国者様。

今回の判断は『永住外国人に対して生活保護を支給しなくても問題なく合法』としただけであり、『地方自治体の行政裁量により支給するのは自由』と司法判断されただけだ。
つまりは『永住外国人に対し生活保護を支給する行為は、法的には問題にならない』ということであり『支給しても良い』と最高裁がお墨付きを出した事になる。



憤ってる人権派や反差別界隈の方々。

今回の判断は飽く迄も『権利がない=法的保護がない』という話なだけであり、永住外国人の生活保護受給に即座に影響は出ないと思われる。詳細は後述するが、この最高裁判断はある意味で【塩見訴訟】【堀木訴訟】を踏襲してるとも言える内容である為、この判断を以って最高裁が変節したなどとはとても言えない事に注意する必要がある。


では最初に各報道から見ていこう。


最高裁が初判断「外国人は生活保護法の対象外」

魚拓










「外国人に生活保護受給権なし」最高裁が初判断


魚拓







永住外国人の生活保護認めず 最高裁が初判断

魚拓









各社の記事をよく読んで注目して欲しい。
『二審判決を覆した』とある。
では、その二審判決(高裁判決)とはどの様なものだったのか。
いや、そもそも一審判決は――何を争って裁判したのだろうか。


永住外国人生活保護(大分地裁)【平成21(行ウ)第9号 生活保護開始決定義務付け等請求事件】
永住外国人生活保護(福岡高裁)【平成22(行コ)38号 生活保護開始決定義務付け等請求控訴事件】

※第一審、第二審判決の詳細な内容は上記リンクの判決文を読んで欲しい。(PDF注意)


簡単にまとめると以下の様になる。


原告は永住権を持つ在日中国人女性

この女性は、同じく永住権を持つ在日中国人男性と1954年(昭和29年)に結婚し料理店を営んで暮らしていた。
然し、1978年(昭和53年)頃に夫の体調悪化に伴い店を閉め、義父(夫の父)の駐車場収入と夫の所有不動産の賃貸収入で暮らしていた。

2004年(平成16年)9月頃から夫が認知症により入院。
2006年(平成18年)4月頃に義弟(夫の弟)が自宅に引っ越して来て同居を始めた。

この後、義弟からの原告に対する暴力や虐待が始まり、預金通帳なども取り上げられた。
そして生活に困窮した原告は、2008年(平成20年)12月15日に生活保護を申請した。
然し、行政機関は夫名義及び原告名義の預金残高が相当額あるとの理由により、同月22日に保護申請を却下した。
原告はこの申請却下を不服とし、2009年(平成21年)2月6日に行政審査の申し立てを行なった。
だが県知事は、行政不服審査の対象は『処分』であり、永住外国人への生活保護支給は『処分』ではなく『行政措置』なので行政不服審査の対象ではないとして審査申し立て自体を却下した。
これに不服を抱いた原告が大分市の福祉事務所を被告とし訴訟に至った。

――と、まぁここまでが事案のあらましである。


ここまでの事実関係により幾つかの前提が導き出される。


前提①
1954~1978年の24年間は、料理店経営により『独立の生計を営むに足りる技能を有していた』という事実。

前提②
1978~2006年までの28年間は、不動産収入により『独立の生計を営むに足りる資産を有していた』という事実。

前提③
2006年以降も本来ならば、不動産収入により『独立の生計を営むに足りる資産を有していた』のであるが、その資産を義弟に奪われ虐待を受けていたという事実。

この前提①②③により、この案件は
『預貯金や資産を有す人間が、身内の虐待行為により生活に困窮した為に生活保護申請に至った』
という事案である事が了解される。
少なくとも
『何の展望も技能も資産も無い外国人が無計画に出稼ぎに訪日した結果、生活に困窮し生活保護申請に至った』
という身勝手な理由ではない事は解って頂けるものと思う。


前提④
原告が自由に出来ない資産であるとは言え、2008年時点で多額の預貯金が存在し資産も所有していた。これにより保護申請は却下されたという事実。

前提⑤
保護申請却下を不服とし行政審査を申し立てた。然し、永住外国人への生活保護支給は行政審査の対象である『処分』ではないとして却下したという事実。

この前提④⑤より、裁判の争点が導かれる。
即ち

  1. 『自分名義の資産が有ろうと自由に出来ないのなら、生活困窮が認められるのではないか』
  2. 『定住外国人にも「生存権」は適用されるのではないか』
  3. 『生活保護は定住外国人にも「受給権」はあるのではないか』
  4. 『定住外国人への生活保護支給は「行政処分」ではないのか』
という四点が問題となる。
尚、この問題点の一は既に解決しており、2011年(平成23年)12月に原告の生活保護が認められている事は先に言っておく。



この争点に対する双方の主張は

原告側(在日中国人女性)

定住外国人にも憲法第25条の生存権の保障は及ぶので、生活保護法の申請権は適用される。行政は法的に認められた行為を却下したのだから『処分』を行なった事には間違いなく、行政不服審査の対象である。仮に支給が認められないとしても、旧厚生省通知により定住外国人にも生活保護を支給してきた事実がある為、却下された事への確認請求は為されて然るべきである。また、国際人権規約A規約第2条2項第9条・第11条1項により、外国人への生存権保障並びに生活保護受給権がある事は明白である。

被告側(大分市)

生活保護法は対象を『国民』と規定しているので、外国人には申請権及び受給権は無い。つまり定住外国人への支給は生活保護法に基づくものではなく、飽く迄も行政機関の行政措置に過ぎないものであるのだから、その申請への応答は『行政処分』ではない。また福祉に於いては自国民が優先され、外国人を後回しにするのは憲法第25条に反するとは言えない。また、外国人への生活保護の申請権及び受給権を認めないのは憲法第14条の法の下の平等に反しない。また、国際人権規約A規約の第2条2項・第9条・第11条1項は『国には社会保障の実現に向けて推進する政治的責任が有る事を確認したもの』であって、個人に対し即座に権利を与える事を定めた条項ではない。

と真っ向から対立しているのだ。


それで判決はどうなったかと言えば……

一審・大分地裁
 被告(大分市)勝訴 原告(在日中国人女性)敗訴

  • 生活保護法の対象は『日本国民』のみ
  • 生活保護法対象者から永住外国人を除外するのは憲法第25条に反するとは言えない
  • 各人の有す事実上の差異を前提とした合理的区別なので憲法第14条に反しない
  • A規約の問題とされた各条項は『国の政治的責任を規定した条項』で、個人に権利を与える条項ではない
  • 生活保護法の対象では無いので『法的保護』は無い。これにより『行政処分』にはならないので、行政審査の対象外
となった。
上から順に理由を説明しよう。

(理由1)

旧生活保護法(昭和21年9月9日法律第17号)第1条では
この法律は、「生活の保護を要する状態にある者」の生活を、国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく、平等に保護して、社会の福祉を増進することを目的とする。
として『恩恵的な給付』として、一切の国籍区別をしていなかった

それが新生活保護法(昭和25年5月4日法律第144号)第1条では
この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
として、対象を【すべての国民】として日本国民に限定した。法の制定目的からしても『国民』に限定されることは明白である。
よって『生活保護法は、法的には対象を日本国民に限定している』となる。

(理由2)

日本国憲法第25条は、国の政治的責務を記したものであり、その要請に応えてどの様な措置を講ずるかは立法府の裁量権に委ねられている。永住外国人に保護を認めるかどうかも立法府の裁量権の範囲内である。著しく偏っているものでなければ、違憲か否かの問題さえ起こらない
更に、永住資格を持っていようとも外国人の場合は本国の資産調査などが困難である為に、永住外国人に全額公費負担の生活保護を与える場合には「事実上無条件に与える」事になる恐れがある。
よってこの申請却下が著しく偏っているものだとは言えず、憲法第25条に反するとは言えない

(理由3)

日本国憲法第14条は合理的な理由のない差別を禁止する規程である。
国はその限られた財源の中で様々な社会保障を制定するものであって、その適用範囲は立法府の裁量権に委ねられている。立法府が定住外国人を生活保護法の対象外としても、そこには合理性が無いとは言えない。よって憲法第14条にも反しない

(理由4)

国際人権規約A規約の問題となった各条項だが、これは締約国に権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負わなければならないとしたものであって、個人に対し直接具体的な権利を付与したものではない。よってA規約によって個人が生活保護受給を主張する事は出来ない

(理由5)

上記理由により永住外国人は生活保護法の適用範囲外ではあるが、各地方自治体の行政裁量権の及ぶ範囲として、定住外国人にも生活保護を準用している。これは飽く迄も『行政裁量』として、永住外国人からの生活保護の要請(申請)を受付ており、それに応答し支給/不支給の判断をしているだけなので、法に基づき行政権を作用させる『処分』とは異なるものである。つまり、行政の『処分』を対象とする行政不服審査法の適用除外である。


以上が理由となる。

また大分地裁は判決文の中で
外国人に対する生存権保障の責任は、第一次的にはその者の属する国家が負うべきである
とも言っている。
これも後々問題になるのだが……


簡単にまとめよう。
生活保護を申請する場合、一審に従うと以下の様になる。


日本国民 【生活保護法による権利有】
→生活保護法に基づいて申請 【申請権有】
→行政府による判断での保護開始、又は申請却下 【行政処分】
→受給権が有る為、不服なら行政審査を申し立てられる 【法的保護有】

定住外国人 【生活保護法による権利無】
→行政措置に基づいて申請 【申請権無 但し行政措置として裁量で受領】
→行政府による判断での保護開始、又は申請却下 【行政処分ではなく単なる要請応答措置】
→受給権が無い為、不服でも行政審査を申し立てられない 【法的保護無】


これが二審で、そして最高裁でどう変わるのかを続けて解説していこう。