2014年7月21日月曜日

日本国の難民条約批准と国内の社会保障関係法の一斉改革について ~外国人生活保護問題に関連して~

さて、今回の表題の件については本気でショックを受けた事をここに告白する。


……いやさぁ。
今10代20代の子が『知らない』とか言うなら未だ解るけれども、正直40代以上の人間が表題の事を全く知らないような発言をするってのはねぇ。而もそれが、或る程度発言力や影響力があって、若い子がそいつの発言に感化される様なタイプだとか……(敢えて名指しはしない)


正直、泣きたい気分で一杯の私です。

 つД`)・゚・。・゚゚・*:.。..。.:*・゚



いや、泣いても解決しないからエントリー書くか。
愚痴失礼。




表題の難民条約

正確に言うならば、この呼び方は 難民の地位に関する1951年の条約 及び 難民の地位に関する1967年の議定書 の二つを合わせた通称である。


成立経緯を簡単に説明する。

第二次世界大戦を契機として、それ以前より各国に存在した難民保護の為の法制度を整備し、多数の国が参加する世界的な統一基準として成立したのがこの51年の条約になる。背景としては、未だに戦火の爪痕が多数残り戦争難民が大量に発生していた時代であったが為に成立が急がれたという事情もあった。そうして『1951年(昭和26年)1月1日以前の事件の結果として難民になった者(主に第二次大戦の被災者を想定)』を保護する条約が成立した。

だが、実際の難民はこの条約の規定日以降にもアフリカを中心に多数発生していた。その為、時間を限定せずに包括的に難民を保護する法制が求められた。難民保護救済が急務であった為、条約改正に時間をかけるよりはと、1967年(昭和42年)に『条約に於ける難民認定の時限的制約を取り払っただけの議定書』という形で成立した。




日本は1981年(昭和56年)6月5日の国会承認を経て、同年10月3日に国連事務総長に加入書を寄託。同月15日に国内で公布され、翌1952年(昭和27年)1月1日に発効(効力を生じる事)した

(※)
これ以上の詳細な経緯や解説は、外務省作成の 難民条約パンフレット を参照の事。


で、この難民条約。

条文中に『合法的に国内に滞在する難民』に関して、様々な権利を保証する内容が規定されている。特に第24条の1(b)は、これを根拠にして国内の社会保障関係四法(国民年金法、児童手当法、児童扶養手当法、特別児童扶養手当法)の『国政条項』の撤廃に至った条文である。

第24条【労働法制及び社会保障】
1.締約国は、合法的にその領域内に滞在する難民に対し、次の事項に関し、自国民に与える待遇と同一の待遇を与える。

(中略)

(b) 社会保障(業務災害、職業病、母性、疾病、廃疾、老齢、死亡、失業、家族的責任その他国内法令により社会保障制度の対象とされている給付事由に関する法規)。ただし、次の措置をとることを妨げるものではない。
 (i) 当該難民が取得した権利または取得の過程にあった権利の維持に関し適当な措置をとること。
 (ii) 当該難民が居住している当該締約国の国内法令において、公の資金から全額支給される給付の全部または一部に関し及び通常の年金の受給のために必要な拠出についての条件を満たしていない者に支給される手当てに関し、特別の措置を定めること。

日本も批准したからには、それに従って国内法を整備する必要がある。
あるのだが……
ここで厄介な問題があった。
日本には『難民を認定する法制』が存在しなかったのである。
なので真っ先に 出入国管理令 を改正して難民認定に関する規定を盛り込む事を視野に入れた。

そこで、1981年(昭和56年)の第94回国会に国内法整備の為の改正法案として 難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律案 を提出。同年6月5日に成立。難民条約が発効された1982年(昭和57年)1月1日から施行された。


その結果として……
出入国管理令は 出入国管理及び難民認定法 と名前を改め『難民認定に関する規定』が新設された。
旧国民年金法 からは国籍条項が削除され、現行の 国民年金法 に。
旧児童手当法 からも国籍条項が削除され、現行の 児童手当法 に。
旧児童扶養手当法 からも国籍条項が削除され、現行の 児童扶養手当法 に。
旧特別児童扶養手当法 からも国籍条項が削除され、現行の 特別児童扶養手当法 に変更された。


(※)
過去の 国民健康保険法 では、日本国民以外で加入出来るのは(1)難民条約の適用を受ける難民(2)1965年に締結された日韓地位協定に基づく永住許可を受けている者(3)市町村が独自に条例で定める国の国籍の者――の三種のみとなっていた。
だが、1986年(昭和61年)に 国民健康保険法施行規則 が改正され、更に上記(3)の市町村による国籍指定が撤廃された為、国籍如何に関わらず 国民健康保険法第5条 に言う『区域内に住所を有する者』として扱われる事となった
これにより現在では、長期違法滞在者(オーバーステイ)等でない限り、外国人でも加入出来る様になっている。


さて、ここで『正規滞在の外国人と難民では違うではないか』という反論が出そうなので、予め潰しておこう。

法的に言うならば、『日本国民(日本国籍保有者)』以外は、永住外国人であろうと一時滞在の外国人であろうと難民であろうと『日本国民とは異なる者(日本国籍未保有者)』という同一の括りでしかない。
そこで、難民条約に従い『難民=日本国民とは異なる者(日本国籍未保有者)』に『自国民(日本国民)と同一待遇を与える』ならば、他の『日本国民とは異なる者(日本国籍未保有者)』である『永住外国人や一時滞在外国人』等にも自動的に『自国民(日本国民)と同一待遇を与える』事となる
これにより、難民を含む一般外国人全てに内国民待遇が与えられたのである。


然し、だ。
この国籍条項撤廃の流れにも関わらず 生活保護法 には、国籍条項(第1条及び第2条)が残っている。そして未だに改正されていない。これは一体どういう訳であろうか。

これに関しては当時の国会議事録から引用しよう。

1981年(昭和56年)5月27日 衆議院 法務委員会、外務委員会、社会労働委員会連合審査会 第1号

質問者は『外務委員会理事(当時) 土井たか子氏』
答弁者は『厚生省社会局長(当時) 山下眞臣氏』
議事録の発言番号17番より引用を開始する。

○土井委員 いまのは、ちょっと私の質問に対する御答弁にはなっていないように私には思われるのです。 ただ、それならばいま厚生大臣がおっしゃったことでちょっとお尋ねをしたいと思いますが、今回国籍条項が撤廃されるという対象になっているのは国民年金、児童手当、児童扶養手当、特別児童扶養手当、こうなるだろうと思うのです。ところが、生活保護法、国民健康保険法というのは国籍条項を置いたままになるのですね。この取り扱いは従前どおりということになるだろうと思うのですが、どのようにこの点は今後改革を迫られるか、どういうふうにお考えになりますか。
○山下政府委員 生活保護につきましては、昭和二十五年の制度発足以来、実質的に内外人同じ取り扱いで生活保護を実施いたしてきているわけでございます。去る国際人権規約、今回の難民条約、これにつきましても行政措置、予算上内国民と同様の待遇をいたしてきておるということで、条約批准に全く支障がないというふうに考えておる次第でございます。
○土井委員 しかし、その法そのものについては従来どおり、生活保護法にしても国民健康保険法にしても、国籍条項は削除しないというままに置くわけでしょう。適用の運用の上で配慮をそれぞれ試みていくというにとどまるわけですね。どういうわけでこれは国民年金や児童手当や児童扶養手当等々と取り扱いを異にして、国籍条項というものを据え置くことになったのですか。
○山下政府委員 難民条約で、難民の方に対しましても日本国民と同じ待遇を与えるようにと書いてあるわけでございますが、それはその形がどうであれ、実質が同じ取り扱いをしておれば差し支えないという解釈であることは先ほど申し上げたとおりでございます。 生活保護法につきまして今回なぜ法律改正を行わなかったかということでございますが、一つには、国民年金等につきましては給付するだけではございませんで、どうしても拠出を求めるとか、そういった法律上の拠出、徴収というようなことにどうしても法律が必要だろうと思うのでございますが、生活保護で行っております実質の行政は、やはり一方的給付でございまして、必ずしもそういう法律を要しないでやれる措置であるということが一つの内容になるわけでございます。 ただ、改正してもよろしいではないかという御議論もあろうかと思うのでございます。その辺につきましては十分検討いたさなければならぬと思うわけでございますが、いろいろむずかしい問題がございます。 たとえば出入国管理令でございますか、今度は法で、出入国の拒否事由といたしまして貧困者等国、地方公共団体の負担になる者、これにつきましては入国を拒否することができるという規定があるわけでございまして、そういった規定との関連を、この生活保護を法律上のものとして改正する場合にどう調整していくかというような問題等もございます。あるいは生活保護につきましては国民無差別平等にやるわけでございますが、補足性の原理というのが強くあるわけでございますが、そういった外国人の方の親族扶養の問題等をどう解決していくか等々非常に詰めなければならぬ問題が多うございますので、今回は、とにかくこういった条約の批准には何ら支障がないし、実質的には同じ保護をいたしておるのであるからこれによって御了解をいただきたい、かように考えているわけでございます。
○土井委員 いろいろ取り扱いの上で具体的にむずかしい問題もあろうかと思いますけれども、そうすると、これはそのために新たな通達を今回御用意になるというかっこうなのですか。
○山下政府委員 すでにもう昭和二十年代に、外国人に対する生活保護の適用ということで明確に通知をいたしております。かつまた、予算も保護費ということで、国内の一般国民と同じ予算で保護費の中で処置をいたしておるわけで、特にそれを改める必要はないわけでございますが、こういった難民条約の批准等に絡めまして、一層その趣旨の徹底を図るという意味での通知、指導等はいたしたいと考えておるところでございます。

これらの山下氏の発言で『生活保護法に国籍条項を残した理由』が解ると思う。

外国人に対しての生活保護支給に関しては、1954年(昭和29年)に旧厚生省より発せられた 厚生省社会局長 昭和29年5月8日 社発第382号 活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について という通知によって『当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて左の手続により必要と認める保護を行う』という『行政措置』が取られる事となった。
こうして、『法の適用対象とならない』外国人に対しても生活保護法に準じて保護が行われる事になっていた。

山下氏の説明によれば、この通知で外国人にも生活保護を適用する事によりその形がどうであれ、実質が同じ取り扱いをしておれば差し支えないという解釈を満たす為、難民条約批准による『自国民と同一の待遇を与える』という条件をクリアしているとの事だ。

更に、通知に頼らずとも素直に法改正すれば良いではないか、という意見にはこう反論する。

先ず、生活保護の給付性格が問題となる。
国民年金等では受給するばかりではなく、対象者が一定額を納める事で始めて受給資格が生まれるという『拠出と給付が対応している』形になっている。その為に法制が必須となる。
だが生活保護は違う。飽く迄も行政機関による『一方的な給付』という形を取っている。その為、態々法律改正をせずとも現場の行政レベルで対応可能だと言える。

次に、出入国管理令(現在は出入国管理及び難民認定法)との絡みがある。
具体的には外国人の上陸拒否事由として貧困者、放浪者等で生活上国又は地方公共団体の負担となるおそれのある者という規定(出入国管理令/出入国管理及び難民認定法 共に第5条1項第3号)がある。要は、国や地方の予算を圧迫させる事が最初から解っている者に対しては上陸許可を出さないという事だ。
ここでもし生活保護法から国籍条項を撤廃したら、明らかにこの規定と矛盾してしまう。国籍条項撤廃という事は、国や地方の予算を圧迫させる事が最初から解っている外国人に対しても生活保護を給付するという事になってしまう。法条文との矛盾をなくす為にも、国籍条項を撤廃する訳にはいかない

それから、保護決定に至るまでのプロセスの問題もある。
山下氏の説明では『捕捉性の原理』と言われているが、要は保護決定に至るまでの調査が煩雑になり、解釈や対応も難し過ぎるという事だ。例えば親族による扶養の問題。生活保護法では基本的に、保護決定の前に親族に『この方の扶養は可能ですか』扶養の可否を問い合わせる外国人の場合、この親族が外国にいる場合も多いので、そこで扶養してもらうという事は『日本国から退去しなさい』と言っているのと同じになってしまう
これは 憲法第22条(居住・移転の自由) の侵害になり明らかに違反する。
(尚、日本国憲法の人権規程は『明らかに日本人を対象としているものでない限り』外国人にも普遍的に適用される。マクリーン事件判例)


これらの理由から、生活保護法に『敢えて』国籍条項を残しているという事なのだ。




この様な経緯の変遷があって、日本国の社会保障関係法が外国人にも適用される事になった訳だ。

だから『外国人への生活保護支給は違法だ!』とか『外国人への生活保護支給は法的根拠が無いから、スグに打ち切れ!』だとか……
あと、まさかとは思うが『外国人へ生活保護を支給している地方自治体に行政不服審査訴訟を起こす!』とか考えてる人は即刻辞めた方がいいと思うよ?

間違いなく君が恥を掻くだけだから。

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