2008年12月10日水曜日

国籍法の一部を改正する法律の問題について そにょ1~国籍法って何? 改正ってどう変わったの?

去る2008年12月5日、参議院本会議において『国籍法の一部を改正する法律案(閣法第九号)』が可決・成立致しました。

相も変わらず、ネット上では反対運動が盛り上がっていますが……

私から見ると『はぁ?』でしかないんですね。

そこで、PC環境復活記念(笑)として、何回かに分けて特集記事を書いていこうかと思います。

 

☆国籍法って何?

国籍法の目的は、第一条に書かれている通りです。

(この法律の目的) 
第一条 日本国民たる要件は、この法律の定めるところによる。

つまり、この法律の適用によって『日本国籍とはどういうもので、誰が所有しているのか』が決まる訳です。

この根拠は『日本国憲法』の

第十条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。

にあります。

しかし、国籍の登録や管理などには『戸籍法』が係わっており、実際の運用には『民法』が大きく関連するという法体系であることを忘れてはなりません。

近代法体系では、単独で成立してる条文は皆無なのです。

これを押さえておかないと『国籍法改悪さえ防げばいい』なんて馬鹿な思い込みになります。

ま、そもそも今回の改正の何処が『改悪』なのやら……

 

☆どう変わったの?

さて、今回の改正は2008年6月4日の最高裁による『国籍確認請求事件の違憲判決』を受け、早急に成されたものです。

判決文 → http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080604174246.pdf

この裁判では、国籍法第三条一項が問題となりました。

 

(準正による国籍の取得)
第三条 父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。

 

この条文は簡単に言いますと『親の認知による、子の日本国籍の取得条件』を述べています。その条件を『今のままじゃ厳し過ぎるから、もう少し緩和せよ』としたのがこの判決です。

こう言ってしまうと

『え? 外国人との間の子でも、日本人の親が認知したら、自動的に日本人になるんじゃないの?』

と驚く人もいるかも知れません。

『準正』とか『認知』とか、ひじょーにややこしいので覚悟して下さい。

ま、出来得る限り解り易くはしたいと思いますが……

 

先ず基本の基本、どういう時に『子供が日本人となるか』を見ていきましょう。これは『国籍法第二条』に記載されています。

(出生による国籍の取得)
第二条 子は、次の場合には、日本国民とする。
一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。

 

出生、つまり母の出産時にABCの何れかなら、子供は『日本人』になります。

A.法律上の父親(以降、法父と略)か、法律上の母親(同、法母)が日本国民の場合

『法律上の父母』と言うのは『生物学上の父母』と違うことに注意です

B.既に死んだ法父が、子供の出産時に日本国民だった場合

C.父母が不明、又は法父母が無国籍者の場合

 

これは『出産された子と、出産時に法的な親子関係が確立していなければならない』という前提条件のもとに、その『法的に確立した親』の立場によって子供の立場が確定されるという条文です。

『法律上の親子関係』と言うと難しいかも知れませんが……

要は 『この子の親は貴方ですよ、と日本政府に認められた人』 を言うのです。

で、これは『婚姻』(根拠 民法第七百七十二条)よって認められるとなっています。

(嫡出の推定)
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

『嫡』とは『正当な血統』の意。そこから、婚姻した夫婦間の子を『嫡出子』、そうではない子を『非嫡出子』と呼びます。

 

父親の場合、分娩(妊娠出産)の事実はありません。男は子供産めませんし。ですので『本人の意思と行動』が問題になります。それは『婚姻の有無』という形で表され『法的親子関係』の根拠となります。つまり、結婚してなきゃ『法的親子関係』は成立しないよという話です。という事は、父親との関係は『嫡出子』以外有り得ない理屈になります。

母親の場合、分娩という生物学的根拠に基づいて『法的親子関係』が確立されると考えられています。(最高裁判所 昭和三十七年四月二十七日判決 最高裁判所民事判例集十六巻七号一二四七号) まぁ、民法第七百七十二条二項により『推定された嫡出子』『推定されない嫡出子』に分かれるんですが、今回は詳細省略。ですから、『法母がいない』のは『母親が誰なのか不明な場合』に限られます。(だから、民法七百七十九条に母の認知が書かれているのです)

……と、ここまで書いて思い出しましたが。近年の『人工授精による代理母』の出現により『分娩=法的母』の関係も揺らいでいるようです。(今回はあまり関係ないので省略)

今までの例で言うならば、余程の例外を除いて『非嫡出子と法的親子関係にあるのは母親だけ』ということになります。

 

『それなら非嫡出子には、父親との法的な親子関係は認められないの?』

いいえ、そうではありません。『認知』という方法によって、『非嫡出子』も『父親との法的な親子関係』を結ぶことが出来ます。その『認知』ですが、これは 『非嫡出子について、父又は母が親子関係の存在を認めること』 を言います。つまり 『この子は確かに自分の子です、と日本政府に宣言すること』 です。

『認知』は大きく二種類に分かれます。『生後認知』(民法第七百七十九条)と『胎児認知』(同法七百八十三条)ですね。

 

(認知)
第七百七十九条 嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。

第七百八十三条 父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。

要は『出産前に認める』(胎児認知)か『出産後に認める』(生後認知)かの違いです。

『んじゃ、非嫡出子を認めるんだから、認知した子は嫡出子になるんだね?』

そうじゃないのがややこしい。ここにポイントがあります。

『嫡出子』とは、その言葉通り『父母が婚姻関係にあって産まれた子供』です。ぶっちゃけ 『両親が結婚してなきゃダメ』 という大原則があります。つまり、いくら認知しても、両親が結婚してない場合は問答無用で『非嫡出子』になります。

『じゃあ、法律で親子と認められるだけ?』

いえいえ。これから説明する『準正』をする為には必要な前提条件なのです。

 

さて、いよいよ『国籍法第三条一項』の題に出てきた『準正』の解説です。

これは『非嫡出子が嫡出子の身分を取得すること』を言います。簡単に言うなら 『日本政府が、この子をこの夫妻の実子と認めました』 ってことです。その方法には二つあります。『婚姻準正』(民法第七百八十九条一項)と『認知準正』(同条二項)です。

 

(準正)
第七百八十九条 父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
2 婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得する。
3 前二項の規定は、子が既に死亡していた場合について準用する。

 

先ほど書きました通りに、両親が未婚なら問答無用で『非嫡出子』です。いくら父親が認知しても、法的には『非嫡出子』のままです。父親の戸籍の身分欄には『何年何月何日 ○○を認知』と書かれるだけです。それなら、両親が結婚したらどうでしょう? そうです。晴れて『嫡出子』となるんです。

一項は『認知→出産→婚姻』または『出産→認知→婚姻』の場合を指します。『胎児認知』後の『準正』がこれに当たりますし、『子供が産まれたから結婚する』って奴もそうですね。

二項は『出産→婚姻→認知』、つまり『子持ちの男女と結婚後に、その子を認知する』場合を指します。再婚の場合が代表例ですね。

 

で、ここまで来てやっと『国籍法第二条』及び『同法第三条一項』の解説に入れます。

条文をもう一度。

 

(出生による国籍の取得)
第二条 子は、次の場合には、日本国民とする。
一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。
(準正による国籍の取得)
第三条 父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。

第二条一項一号から見ていきます。産んだ母は自動的に『法的な母』と見做されますから、法母が『日本人』なら子供も『日本人』です。では、母が外国人の場合は? 出産の時に既に法父がいるという事は……

1.出産時には婚姻していた(子供は嫡出子)

2.出産時に婚姻はしてなかったが『胎児認知』していた(子供は非嫡出子)

この二つ以外に以外にありません。それ以外の場合には、日本国籍を取得出来ずに母の国籍となります。母がアメリカ人なら米国籍、タイ人ならタイ籍、韓国人なら韓国籍というように。

同二号でも、出産前に『法父』が確定していますから、上記と同様になります。

同三号は、完全な捨て子などの極々限られた例になります。

第三条一項では、『準正』を経て『嫡出子』になった『二十才未満の外国籍の子供』なら、第二条一項一号と同じ理屈で、法父か法母が『日本人』なら子供も『日本人』になれる、となっています。

 

……さて、ここで何か気付きませんか?

第二条の『出生による国籍取得』では『婚姻による嫡出子』と『胎児認知による非嫡出子』が共に『日本国籍を取得出来る』条件になっています。つまり、『嫡出子』も『非嫡出子』も両方対象な訳です。

対して、第三条一項の『準正による取得』では『準正を経た嫡出子』のみとなっています。ここでは『嫡出子』のみで『非嫡出子』は認められていません。

出生 → 嫡出子&非嫡出子

産後 → 嫡出子

という風に、差が有るということです。アンバランスなんですね。

これに対して 『不公平だ! 日本国憲法第十四条一項違反だ! 違憲だ! 俺は結婚してないが認知はしてるから、うちの子に日本国籍を寄越せ!』 と声を上げたのが問題の裁判だった訳ですね。

 

日本国憲法

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

3  栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

 

結果としては、最高裁も『違憲だ』だということを認めました。が、『日本国籍はやらない。それは裁判所の権威を逸脱してるし』として、原告主張は却下されています。どーせ、施行後に届け出するんでしょうけどねw

でもって『違憲だから早急に変えなさい』とされたので、今回の改正となりまして……

 

国籍法の一部を改正する法律案
国籍法(昭和二十五年法律第百四十七号)の一部を次のように改正する。
第三条の見出し中「準正による」を「認知された子の」に改め、同条第一項中「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した」を「父又は母が認知した」に改める。

とされた訳です。ですから、第三条一項は

 

(認知された子の国籍の取得)
第三条 父又は母が認知した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。

 

となって、見事に

出生 → 嫡出子&非嫡出子

産後 → 嫡出子&非嫡出子

となってバランスが取れたのでした。これが今回の改正の要点です。

 

 

 

長々とお疲れ様でした。

ここで一端切りましょう。

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